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故人への想いとともに前進するミュージカル

影山雄成のバックステージ・ファイル
『The Phantom of the Opera』
Photo:Matthew Murphy

秋が深まった10月22日、一連のブロードウェイ再開が大きな節目を迎えた。
ブロードウェイで歴代ロングラン記録の第1位を保持するミュージカル『オペラ座の怪人』復活の日だ。

パリ・オペラ座の地下室に潜む怪人と歌姫との切ない恋物語を紡ぐミュージカルがニューヨークで初演されたのは34年前。
今では観光ツアーの一環としても欠かせない作品として定着している。
この作品が息を吹き返すことは、ニューヨークの街そのものの復活を意味し、これまでの再開を記念するさまざまな作品の公演よりも大掛かりなものとなった。

劇場前にはレッドカーペットが敷かれ、報道陣が詰めかけ、一般の観客やセレブたちがこの瞬間を待ちきれなかったかのように早い時間から到着する。
観客の中には、劇中の登場人物と同じ衣装のコスプレをしたセレブや大ファンも目立つ。
全ての座席に生花の赤いバラや、作品のシンボルである仮面のロゴマークをあしらったグッズ、そして仮面さえもギフトとして置かれる心尽くし。

開演前のアナウンスでは、観客全員に各々のマスクを着用した上から、背もたれにギフトとしてかけられていた“2枚目のマスク(=仮面)”を被るようにとの指示が出る。
そして、「ブロードウェイが戻ったことを世界に知らしめるため」としてフォトグラファーがステージに上がり、仮面を被った観客全員を記念撮影するのだ。

Photo:Jeremy Daniel

次にステージに立ったのは、ブロードウェイがパンデミックを乗り切るための助成金を実現に導いた大物政治家のみならず、『オペラ座の怪人』の生みの親である作曲家アンドリュー・ロイド=ウェバーとプロデューサーのキャメロン・マッキントッシュだ。
『キャッツ』も世に送り出した名コンビとして知られる作曲家とプロデューサーからは、『オペラ座の怪人』を実現に導いた演出家と美術デザイナー、そして振付師の既に他界した3人に哀悼の意が表される。
また、いかに作品自体が彼らなしでは成立しないかが説かれ、公演を3人に捧げることを宣言、ニューヨークを象徴する舞台が再びロングランを始めた。

終演後には劇場前の通りを閉鎖しパーティーが開催される。
74歳の作曲家アンドリュー・ロイド=ウェバー自らがDJを務め、観客や本番を終えたばかりで衣装を着たままの出演者が激しい音楽のリズムに乗っていく。
ブロードウェイの本格的な再生を誰もが実感した瞬間だった。

3作品のミュージカルにはもうひとつの共通点がある。
観客全員に無料配布されるのが慣わしのプログラムの表紙に公演初日は、その日付のあるステッカーが貼られたこと。

ステッカーの一枚一枚が手作業で貼られた特別仕様のプログラムからは、ブロードウェイに新たな意気込みをもって挑もうとする3作品の決意が汲み取れたのだ。

日付入りの丸いステッカーが貼られたプログラム

さらに、これらのプログラムはブロードウェイが再開したばかりの昨年6月に配られた薄い冊子に比べて3倍超の厚さにまでなっていた。
劇場街の明かりが再び灯ったことで飲食店などからの広告が入りページ数が急増、冊子が重さを増したのである。

2021年12月31日、タイムズスクエアで行われた2年ぶりとなる年越しカウントダウンは、感染再拡大が懸念材料ではあったものの多くの人でにぎわった。

今回異例だったのは、通常は元日に市庁舎で行われる新たなニューヨーク市長の就任宣誓が前倒しとなり、カウントダウン直後のタイムズスクエアで行われたこと。
第110代となる新市長は、新年を迎えた直後の1日未明、あえて世界中のカメラの前で就任宣誓をして、力強く回復するニューヨークの街をアピールしたのだ。

そして就任演説では、新型コロナウイルス感染拡大を乗り越え「危機に左右されない」ことをスローガンに掲げ、ブロードウェイの舞台を観劇するよう呼びかける。そして1月下旬には早速自身も劇場街でミュージカルを観劇した。

2020年は5作品が幕を開けた後すぐに閉鎖に追いやられた劇場街だが、2021年は6月の再開から年末までに合計40作品が上演を始めることとなった。
故人が傾けた演劇界への情熱とともに新たな歩みを始めた劇場街には、シーズンの終わりとなる今年4月末までにさらに20作品が仲間入りを果たす。

午後11時を過ぎてもタイムズスクエア周辺の飲食店が、観劇を終えたばかりの人々でにぎわう様子は、パンデミック前と同じニューヨークの街のあるべき姿だった。

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書いた人:影山雄成(KAGEYAMA,YUSEI)

影山雄成(KAGEYAMA,YUSEI)

演劇ジャーナリスト。 延岡市出身、ニューヨーク在住。 ニューヨークの劇場街ブロードウェイを中心に演劇ジャーナリストとして活躍。アメリカの演劇作品を対象にした「ドラマ・デスク賞」の審査・選考委員。夕刊デイリー新聞で「影山雄成のバックステージ・ファイル」を連載中。

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延岡バックステージ
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