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演劇界を支えるウーマンパワー

影山雄成のバックステージ・ファイル

寄稿/影山雄成

ライブエンターテインメントという芸術は社会の動きに敏感に反応するのが常だが、ニューヨーク演劇界においては特にその傾向が強い。

昔からアメリカの演劇界では、興行主としてトップに立つプロデューサーから裏方に至るまで、中年の白人男性が牛耳ってきた。しかし近年、“ダイバーシティ”が叫ばれ、人材の多様化が急務になると、人種や性別などにかかわらず平等に採用する動きが推奨されるようになる。
演劇界には守旧的ではないリベラルな人々が多いこともあり、こうした変化にいち早く順応していったのだ。

(上)『Six the Musical』Photo:Joan Marcus
(下)『1776』Photo:Joan Marcus

インターネットのSNSを通して「#MeToo」運動が起こって間もない2018年には、ニューヨークの劇場街ブロードウェイで女性の力強さを称える内容の舞台が瞬く間に急増する。
ディズニー・ミュージカル『アナと雪の女王』がその筆頭で、プリンセス2人の成長を通して、姉妹の逞しさが綴られた。
この年、久々に劇場街で上演された古典ミュージカル『マイ・フェア・レディ』でさえ、本来はヒロインの女性が男性に屈する定番のフィナーレを変更、彼女のプライドの高さと自尊心を引き立たせたのだ。

それから5年が経過した現在では、出演者、そして制作スタッフも含め女性が目立つ作品が次々と世に送り出され、ニューヨーク演劇界全体を盛り上げる。
客席からでもウーマンパワーが感じられる舞台に迫った。

『Six the Musical』
Photo:Joan Marcus

パンデミックによる長期閉鎖を経て、一昨年の秋に再開した新生ブロードウェイで最初に幕を開けた新作ミュージカルがイギリス産の『SIX』。

中世イギリスのヘンリー8世の6人の妻たちが現代に甦りガールズバンドを結成、王妃たちの誰が最も不幸な人生を歩んだのかを競い合い、リードボーカルの座を決めようとする作品だ。
6人の王妃たちがハンドマイクを手に、離婚や斬首、そして病死など数奇な運命を辿った自らの生涯を順番に歌い、“不幸の度合”を披露、アイドルグループのコンサートさながらの舞台が繰り広げられる。

『Six the Musical』2021ブロードウェイトレーラー

さらには出演者6人のみならず、伴奏を担うミュージシャンたちが全員女性というのも珍しく、熱狂的なファンを増やしていった。
オミクロン株による感染再拡大で、ブロードウェイ全体の観客が激減した低迷期でさえ好調なチケット売り上げを記録。そして今では、毎週100万ドル超の興行収入をはじき出すようになり、ブロードウェイで屈指の人気作として君臨したのである。

『& Juliet』
Photo:Matthew Murphy

それから1年が経過し、昨年の秋に開幕して大ヒットしている新作ミュージカル『&ジュリエット』もイギリス生まれで、女性たちが圧倒的な存在感を放つ。
ウィリアム・シェイクスピアによる恋愛悲劇の名作『ロミオとジュリエット』で、もし主人公のカップル2人が命を落とさず生き残っていたらという仮定においての後日譚だ。

使用される楽曲は全てブリットニー・スピアーズやバックストリート・ボーイズなどの著名アーティストが歌ったヒット曲となり、これまでにないジュークボックス・ミュージカルに仕上げた。

『& Juliet』ブロードウェイトレーラー

16世紀末を舞台にした物語は、戯曲『ロミオとジュリエット』の初演から始まる。
新作のお披露目に自信たっぷりのウィリアム・シェイクスピアだが、ヒロインのジュリエットが自ら命を絶つという結末に納得いかないのが劇作家の妻アン・ハサウェイ。夫シェイクスピアに、ジュリエットが命を落とさない結末に変えることを進言、自ら戯曲を書き替えていく。

シェイクスピアと妻との作品の結末を巡るやり取りと、劇中劇となるジュリエットのその後の物語が同時進行で描かれていくのだ。

Photo:Matthew Murphy

自由を満喫し人生を謳歌させ、別の男性と婚約をするジュリエットだが、最後にはロミオと改めて恋人として歩んでいくことになる。しかし、この結末には一捻りが加えられており、2人の間で主導権を握るのはロミオではなく、ジュリエットの方。
また頑固なシェイクスピアも、妻の主張を全面的に受け入れ、彼女を尊重していくことを誓う。
男女のカップルで、女性側がリードする昨今の常識が400年前から成立し得ると提案する。

昨年の秋の劇場街ブロードウェイでは、1969年初演のミュージカルにこれまでにない解釈を加えたリバイバル公演も注目を集めた。
アメリカ合衆国の歴史の原点を紡ぐミュージカル『1776』だ。

『1776』
Photo:Joan Marcus

1776年7月4日にアメリカが独立宣言をするまでのおよそ2カ月間の議会の動きに迫る作品となる。
独立を推し進めたい州の代表と、反対する州の代表とが繰り広げる白熱した議論と駆け引きが描かれる同作品の中心となる登場人物は、当然、議員の男性たち。
議員の妻を演じる女性2人の役もあるが、それ以外の出演者は全員男性というのが、初演以来ずっと守られてきたキャスティングとなる。

Photo:Joan Marcus

ところが、今回のリバイバル公演では、出演者全員に女優をキャスティングした。また、物語の舞台となる18世紀当時は、白人男性以外の議員はいなかったが、黒人やアジア人の女優をバランス良く配役したのも大胆な選択。
さらに、同性愛者などの性的マイノリティを公言している女優も積極的に起用、今の時流を反映させつつ250年前に遡り、歴史の価値を新鮮な出来事として現代人に問う。

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書いた人:影山雄成(KAGEYAMA,YUSEI)

影山雄成(KAGEYAMA,YUSEI)

演劇ジャーナリスト。 延岡市出身、ニューヨーク在住。 ニューヨークの劇場街ブロードウェイを中心に演劇ジャーナリストとして活躍。アメリカの演劇作品を対象にした「ドラマ・デスク賞」の審査・選考委員。夕刊デイリー新聞で「影山雄成のバックステージ・ファイル」を連載中。

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延岡バックステージ
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