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演劇界を支えるウーマンパワー

影山雄成のバックステージ・ファイル

女性を尊重するユニークなストレートプレイ(芝居)も、ミュージカルと並行してブロードウェイに登場した。
音楽劇の要素も兼ね備えた戯曲のタイトルは、“アメリカ合衆国大統領(President of the United States)”の頭文字を並べた愛称となる『ポータス(POTUS)』。

『POTUS』
Photo:Paul Kolnik

物語の舞台は現代のホワイトハウスで、出演する総勢7人の女優が演じるのはアメリカ大統領を取り巻く人々。

大統領本人は舞台には登場せず、大統領婦人や大統領首席補佐官、ホワイトハウス報道官など女性たちが繰り広げる喜劇となる。
大統領が愛人を妊娠させてしまうことが発端となる、ひたすらおバカなコメディで、カーテンコールでは全員が歌とダンスのパフォーマンスを披露、ライブさながらの熱気を劇場にもたらす。
しかし、そんな笑いの中でも頭の回転が速く、融通をきかせて国政を動かす女性像が浮かび上がっていく。

Photo:Paul Kolnik

劇作家はもちろん、演出家やほとんどの美術デザイナーが女性陣で、出演者も含めて白人、黒人、アジア人が平等に起用された珍しい演劇作品となった。

こうした流行はブロードウェイのみに留まらず、小劇場などニューヨーク演劇界全体にも広まっている。
総勢20人のキャスト全員が女性となったミュージカル『サフス』がその代表例。
過去にミュージカル『コーラスライン』や『ハミルトン』といったヒット作を生み出したオフ・ブロードウェイの名門劇場パブリック・シアターが手掛けた新作だ。

『SUFFS』
Photo:Joan Marcus

タイトルの“サフス(SUFFS)”とは、婦人参政権論者を意味する“サフラジェット(SUFFRAGETTE)”を略した造語。
物語は1913年に始まり、1920年にアメリカ合衆国憲法修正第19条が成立、女性の選挙権が認められるまでの史実が伝えられていく。

『SUFFS』より『The Young Are At The Gates』

伝記映画にもなったフェミニズム運動のレジェンドであるグロリア・スタイネムや、俳優のレオナルド・デカプリオなどといった著名人が次々と観劇するたびに、関心を引いていった。
作品に心を打たれたヒラリー・クリントンに至っては、終演後のステージに上がり、観客を前にオフステージトークを行ったほど。
期間限定の公演はすぐに延長されるが、到底チケットの需要に追い付かない。こうして、チケット1枚が3300ドルで取引される話題作となったのだ。

さらに、同パブリック・シアターは、1959年に黒人女性が書いた戯曲として、初めてブロードウェイで上演された芝居『レーズン・イン・ザ・サン』を小劇場で再演する。

この珠玉の名作に登場する脇役の女性たちにスポットをあてた新たな演出に挑戦したのだ。

『A Raisin in the Sun』
Photo:Joan Marcus

シカゴの貧困地区に暮らす黒人一家が、亡くなった父の保険金を手に入れ、その使途を巡る家族の葛藤をあぶりだす同作品の本来の主人公は長男。
これまでは、保険金を使ってビジネスを立ち上げ、裕福な暮らしを夢見る彼の苦難と挫折がメインプロットとなる芝居だった。しかし今回は、長男ではなく、母親や妻、そして妹たち女性を丁寧に描き出すことで、人物関係や物語をこれまでにない形で奥深いものにしていくことを試みる。

Photo:Joan Marcus

とはいえ、大手NYタイムズ紙の劇評家は、今回の演出に理解を示さず、主演女優がそれに対して反論の声明を発表する思わぬ方向へと発展。これまで、絶対的権力を持ってきた劇評家の意見が初めて公の場で非難に晒される事態となった。

Everyone Has Missed the Point of A Raisin in the Sun, According to Tonya Pinkins
Why she felt the need to defend the new Off-Broadway production against its crit...

トーニャ・ピンキンスいわく、誰も『レーズン・イン・ザ・サン』が意図したことを理解できていない
―なぜ彼女が今回のオフ・ブロードウェイ版を劇批評家たち、特にNYタイムズから擁護しないといけないと感じたか―
2022.11.16

PLAYBILLの特集より

古典演劇にメスを入れた画期的なリバイバル公演は、作品への解釈と同時に、大手メディアの劇評に疑問を呈した女優の果敢な決断が業界で注目の的となったのだ。

年々オフ・ブロードウェイでは、社会に進出して重要な役割を果たす女性の活躍を取り上げる戯曲が増え続けている。

昨年の秋に期間限定公演を成功させたストレートプレイ『パワーハウス』の主人公も野心を抱いた40代の女性弁護士。

『POWERHOUSE』
Photo:Cameryn Kaman

保守的な両親の反対を押し切り、苦労の末に弁護士になり大手法律事務所に勤める主人公は、順風満帆なキャリアと家庭とを両立できるか自問自答を繰り返す。そして、最後には女性として初めて法律事務所の代表に昇格、彼女の代わりに子育てをする若い男性と家庭を築いていく。

Photo:Cameryn Kaman

彼女を蹴落とそうとする法律事務所の同僚からの圧力にも動じず、策略を巡らせながら社会で生き抜く主人公の強靭な精神が、観客の心を動かしていった。

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書いた人:影山雄成(KAGEYAMA,YUSEI)

影山雄成(KAGEYAMA,YUSEI)

演劇ジャーナリスト。 延岡市出身、ニューヨーク在住。 ニューヨークの劇場街ブロードウェイを中心に演劇ジャーナリストとして活躍。アメリカの演劇作品を対象にした「ドラマ・デスク賞」の審査・選考委員。夕刊デイリー新聞で「影山雄成のバックステージ・ファイル」を連載中。

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延岡バックステージ
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