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演劇界とアメリカ大統領選挙

影山雄成のバックステージ・ファイル
『Hamilton』
Photo:Joan Marcus

2015年からブロードウェイでのロングラン公演を重ねている人気ミュージカル『ハミルトン』は、日を追うごとに多様性を重視する民主党のプロパガンダと合致する作品と見なされていったことで知られる。
アメリカ建国の父のひとりで、10ドル札の肖像にも採用されているアレクサンダー・ハミルトンの生涯を描く伝記ミュージカルの売りは、人種を問わない配役。

Hamilton | Official Trailer | Disney+/Youtube
ディズニープラスオフィシャル動画

物語の舞台となる建国当時、アメリカの政府要人には存在しえなかった黒人や中南米系などを筆頭とした人種マイノリティが、敢えて歴史的登場人物としてキャスティングされてきた。
それもあり開幕当初は、当時のオバマ大統領が観劇するなどし、民主党色が濃い作品となり、対する共和党の支持者からは敬遠されるようになったという過去がある。

Photo:Joan Marcus

例えば、白人至上主義を推進したトランプ政権の誕生が決まった2016年の大統領選挙の直後には、次期副大統領になることが確約されたマイク・ペンス共和党議員が世間へのパフォーマンスの一環として同作品をブロードウェイで家族と観劇したが、観客からブーイングされ、カーテンコールでは出演者から皮肉たっぷりの反感的なメッセージを読み上げられた。
するとその翌日には『ハミルトン』のシカゴ公演の劇場で、トランプ支持者が上演中に放送禁止用語とともに大声を張り上げ対抗、セキュリティに強制退去させられるという事案が発生する。それに加え、激怒したトランプ次期大統領が作品を貶し、プロデューサーと出演者にマイク・ペンス共和党議員への謝罪を要求するなどの暴言をSNSで発信。
一連の騒動が通称「ハミルトン事件」としてメディアに取り沙汰されることとなった。

CBS News/Youtube
トランプが『ハミルトン』俳優に謝罪を要求したが、俳優は拒否

今回の大統領選挙でも、結果によっては同ミュージカルが何らかの話題を提供する結果になる可能性が高いと指摘されているのだ。

『POTUS』
Photo:Paul Kolnik

一方、ブロードウェイで2022年に期間限定で初演されたストレートプレイ『ポータス』が、この1年の間にアメリカの地方劇場による自主製作で上演されるケースが相次いでいるのは偶然ではなく、これもまた大統領選挙を意識してのことだと考えられている。

タイトルのポータス(POTUS)とは、アメリカ合衆国大統領(President Of The United States)のアルファベット表記の頭文字を並べた愛称。現代のホワイトハウスを舞台に、架空のアメリカ大統領を取り巻く7人の女性をコミカルに描いていく作品だ。

Photo:Paul Kolnik

劇中、大統領本人は舞台には登場せず、ファーストレディや大統領首席補佐官、ホワイトハウス報道官など出演者の全員が女性なのが特徴で、大統領が愛人を妊娠させてしまうことが発端となるドタバタ劇が展開する。そして、そんな爆笑の舞台の中で、頭の回転が速く、融通をきかせて国政を動かす女性像が浮かび上がっていく。

ブロードウェイでは決して大ヒットしたとはいえず、トニー賞などの演劇賞でも無冠に終わった同作品だが、女性の力強さを強調する舞台作品という昨今の演劇界のトレンドに、大統領選挙への意識が重なったことで、これまで以上に脚光を浴びることとなった。

Photo:Paul Kolnik

アメリカでは、民主党政権下においては大統領も含め多くの政府関係者がブロードウェイの劇場を訪れるなど、演劇界と親密な関係を築く。今のアメリカ演劇界が、民主党のハリス政権の誕生を願うのは当然の成り行きかもしれない。

そんな中、共和党政権になると演劇界と疎遠になることで知られ、ブッシュ元大統領やトランプ前大統領がブロードウェイで舞台を観劇する機会はなかったという事例がある。
とはいえ、トランプ前大統領には演劇界と深い関係にあった過去の逸話があったことも事実。女優だった前妻は、1990年代にブロードウェイでミュージカルに出演していた。そして当時の彼は、彼女の出演する舞台を観るために足繁く劇場に通っていたのである。
さらに遡って不動産王になる前の1970年、彼は大学を卒業して間もない20代前半に、ブロードウェイでプロデューサーとして挑戦した。
残念ながらこの作品は興行的に失敗し短命に終わったが、もし成功していたら演劇界を活躍の場とし、トランプ大統領の誕生さえなかったのではないかと揶揄されているほど。

果たして第47代アメリカ大統領が舞台芸術にどのような理解を示すのか、演劇関係者の多くが固唾を飲んで見守っている。

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書いた人:影山雄成(KAGEYAMA,YUSEI)

影山雄成(KAGEYAMA,YUSEI)

演劇ジャーナリスト。 延岡市出身、ニューヨーク在住。 ニューヨークの劇場街ブロードウェイを中心に演劇ジャーナリストとして活躍。アメリカの演劇作品を対象にした「ドラマ・デスク賞」の審査・選考委員。夕刊デイリー新聞で「影山雄成のバックステージ・ファイル」を連載中。

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延岡バックステージ
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