彼女のサーカス団との契約は、いわゆる“お試し期間”で、もしバトンを扱う以外の多種多様な役を担えなければ契約打ち切りとなるシビアなもの。初めてづくしの挑戦の日々が続く。
パペティア(人形遣い)として初めて本番の舞台に立った際は、まだ渡米から1カ月と経っていなかった。
鳥を模したパペットを巧みに操り客席に飛ばすこの役を経て、次に挑んだのがフライングを使ったアクロバット。
当然ハーネスを身にまといワイヤーで吊られるのは初めての経験。
森の妖精に扮してフライングをしながら海老反りになり、観客の頭上を飛び、地上15メートルの高さでスウィングするこの見せ場では仕事なのだと割り切り恐怖心を払拭した。
「背中の痛みがなかなか治まらず、後日に受診したら肋骨が折れ、さらにはそれが繋(つな)がった痕がレントゲンに写っていました」とハーネス圧迫による当時のエピソードを振り返り苦笑する。
そして、本業のバトントワラーとしての実力を発揮できるダイアナ役のデビュー時のエピソードは、今でも衣装部での語り草。
それは意外なハンディを抱えてのお披露目となったからだ。当初、同役で必要となるカツラはアンダースタディーである彼女専用のものは準備されておらず使いまわすことになっていたという。
その結果、サイズの大きいカツラを固定するのに40本以上のヘアピンが必要な上に頭部の安定が悪いままでのバトンの演技を強いられたのだ。
演じられる役を順次増やしていったことが認められ、入団から1年後には仮契約から本契約へと移された。その後、最初に挑戦した役がエンプレス(皇后)。