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ブロードウェイの新しいトレンドは小劇場

影山雄成のバックステージ・ファイル
『スモーキー・ジョーズ・カフェ』
Photo:Joan Marcus

『ジャージー・ボーイズ』の小劇場での復活ロングランの成功にあやかって、この7月にブロードウェイで18年前に公演を終えた作品がカムバックをするケースも登場した。
ニューヨークに再挑戦するのは名曲「スタンド・バイ・ミー」や「ハウンドドッグ」などを世に送り出した作詞作曲コンビのリーバー&ストーラーによる歌の数々を集めた『スモーキー・ジョーズ・カフェ』。
出演者9人が休む間も無く同作詞作曲家による約40曲を次々と披露していくこの作品がブロードウェイで幕を開けたのは1995年のこと。
物語がないミュージカルレビューとなっていることもあり、創意工夫に欠ける作品であるとメディアの評価が一致し、客入りは今一つだった。
ところがその年のブロードウェイでは記録的に新作の開幕数が少なかったことが幸いする。わずか2作品しか幕を開けなかったため、トニー賞で無条件に作品賞など7部門で候補に挙げられ、授賞式のテレビ放映を通じて作品が露出したことで知名度が高まった。

『スモーキー・ジョーズ・カフェ』より

観光の一環としてブロードウェイで舞台を観てみたいが劇場は敷居が高い、と感じる傾向のあった人々でもコンサート感覚で親しみやすい作品として軌道に乗ったのだ。
レビュー作品としては劇場街史上最長の5年間のロングランを達成した。
今回の再演でプロデューサーが狙うターゲットは19年前と同じで、観劇を躊躇する年配のオールディーズのファン。だからこそ劇場街から程近い場所をこちらも選び、ブロードウェイ作品かのように錯覚させる。
そして数々の宣伝文句が示唆するのは、“ミュージカル嫌いのためのミュージカル“だということ。デザインを一新した舞台装置は郷愁を誘う田舎町のバーとなり、観客にノスタルジックな感慨を持たせる。さらに初演と異なるのは、出演者が何回も客席とステージを行き来し拍手を促しステージを盛り上げていくという観客参加型の演出の豊富さ。
『ジャージー・ボーイズ』と観客を二分する人気作として2回目のロングランをこの夏にスタートさせた。

『スモーキー・ジョーズ・カフェ』
Photo:Joan Marcus

ブロードウェイを訪れる観客の平均年齢は41.7歳で、観客の60%が女性だというデータがある。
ここからみえてくる現状は、劇場で圧倒的多数の年配カップルでは、女性側が演目を選ぶ可能性が高いということ。さらに観客全体の60%が観光客で、そのうちの46%がアメリカ国内からということを踏まえると、年配の米国人女性客の好みにかなった作品が生き残る可能性が高いということになる。
『アベニューQ』、『ジャージー・ボーイズ』、そして『スモーキー・ジョーズ・カフェ』のいずれもが、こうした観光客を取り込める要素を兼ねそなえていた。
だから本来のブロードウェイ上演という名誉がなくても劇場街界隈で上演し、ビジネスを続ける道を選んだ。
3作品のプロデューサーはこれからのエンターテインメントは「小規模でも興行的に成り立たせ、いかに長く上演するかが鍵になる」と口を揃える。
あらゆるミュージカル作品にとっての最終目的地のブロードウェイは、通過地点のひとつになりつつあるのかもしれない。
一人のプロデューサーは「上演劇場によって質が決まるのではなく、作品そのものが質を決める」のだと説く。作品が秘めた可能性を信じて規模縮小に踏み切った大英断に軍配が上がった。

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書いた人:影山雄成(KAGEYAMA,YUSEI)

影山雄成(KAGEYAMA,YUSEI)

演劇ジャーナリスト。 延岡市出身、ニューヨーク在住。 ニューヨークの劇場街ブロードウェイを中心に演劇ジャーナリストとして活躍。アメリカの演劇作品を対象にした「ドラマ・デスク賞」の審査・選考委員。夕刊デイリー新聞で「影山雄成のバックステージ・ファイル」を連載中。

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延岡バックステージ
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